白い雲


一

 みんなは、なにかすてきに、おもしろいことがないかと、思おもっているのです。敏としちゃんも、もとより、その一人ひとりでありました。往来おうらいで、義よっちゃんや、武たけちゃんや、かつ子こさんたちが、集あつまって、なにか見みて笑わらっています。
「なんだろう?」と、敏としちゃんは、走はしってゆきました。
 義よっちゃんが、真まっ黒くろな砂鉄さてつを紙かみの上うえにのせて、両手りょうてで持もっていると、武たけちゃんが、磁石じしゃくで、紙かみの裏うらを摩こすっています。すると、砂鉄さてつがむくむくと虫むしのはうように、磁石じしゃくのいく方ほうについて動うごくのでした。
「おもしろいのね。」
「不思議ふしぎだろう。」と、武たけちゃんが、自分じぶんもそれに見みとれて頭あたまを傾かたむけていました。
「僕ぼく、たくさん砂鉄さてつを取とったのだけれど、洗あらったら、これんばかしになったのだよ。」
 義よっちゃんは、砂鉄さてつの入はいっているびんをポケットから出だして、見みせていました。
 これを見みると敏としちゃんは、にやりと笑わらいました。自分じぶんも大おおきな磁石じしゃくを家いえに持もっていると思おもったからです。それは、いつかお隣となりの兄にいさんから、もらったものです。もう赤あかく塗ぬったところがだいぶはげていたけれど、もとは、いい磁石じしゃくだったのです。
 明あくる日ひ、敏としちゃんは、学校がっこうへいくと、休やすみの時間じかんに、運動場うんどうじょうの砂場すなばで、小山こやまといっしょに砂鉄さてつを取とるのに夢中むちゅうになっていました。小山こやまの磁石じしゃくは、敏としちゃんのより、形かたちは小ちいさいけれど、赤あかいところも全部ぜんぶついていて、吸すいつける力ちからは強つよかったのでした。敏としちゃんの磁石じしゃくは、大おおきいけれど力ちからが弱よわかったのです。
「君きみ、どれだけ?」と、敏としちゃんは、砂鉄さてつを取とるのに、負まけるような気きがして、きくと、小山こやまは、
「まだ、こればかしさ。」といって、しわくちゃになった、どろだらけの紙かみを開ひらいて見みせました。「たくさん取とれたね。僕ぼくの磁石じしゃくは、だめだ。」と、敏としちゃんは、自分じぶんの磁石じしゃくが、ただ大おおきいばかりだというのが、なんとなく歯はがゆくなりました。
「それに、電気でんきをかけると強つよくなるのだぜ。」と、小山こやまが教おしえました。
「電気でんき?」
 敏としちゃんは、そのことを、はじめて知しったのです。さっきから、この不思議ふしぎな力ちからは、いったいどこからくるものかということを考かんがえていたのでした。大おおきくなれば、わかるだろう。けれど、あの太陽たいようをだれが造つくったのかわからないうちは、あるいは、この力ちからもどこから生うまれるかということはわからないのかもしれないと、思おもいながら、茫然ぼうぜんとして、青空あおぞらを仰あおいだのでした。
「君きみっ、ベルが鳴なってしまったんだ!」
 こう叫さけぶと、小山こやまは、あわててはね上あがりました。敏としちゃんも、驚おどろいて、運動場うんどうじょうに人ひとがいないのに気きづくと、急いそいで小山こやまの後あとを追おって、教室きょうしつへ駆かけつけたのです。
 先生せんせいは、後おくれてきた二人ふたりを、じっとごらんになりましたが、黙だまっていらっしゃいました。敏としちゃんは、お座ざについたけれど、しばらく心臓しんぞうがどきどきとしていました。

二

「磁石じしゃくに、電気でんきをかけると、強つよくなるってほんとう?」
 敏としちゃんは、小山こやまのいったことを義よっちゃんにききました。義よっちゃんは、敏としちゃんよりは、一年ねん上うえの組くみです。
「ほんとうさ、電車でんしゃの通とおったすぐ後あとへ、レールに磁石じしゃくをつけると、電気でんきがかかって、強つよくなるのだよ。僕ぼくたち、これからいくのだが、君きみもいかない?」と、義よっちゃんは、いいました。
「レールに、磁石じしゃくをつけるの?」
 日ひごろ、お母かあさんに、電車道でんしゃみちへいって、遊あそんではいけないと、堅かたくいいきかされているので、それが頭あたまに浮うかぶと、敏としちゃんは、どうしようかと返事へんじに迷まよいました。
「すぐ、レールにつけなければ、だめなんだよ。僕ぼくたち、冒険ぼうけんをして、電気でんきをかけにいくのさ。」
「武たけちゃんと?」
「ああ、あまり小ちいさいものは、危あぶないけど、君きみもいっしょにおいでよ。」と、義よっちゃんは、すすめました。 もし、お母かあさんに知しれたら、しかられると思おもったが、義よっちゃんが、
「かつ子こさんだって、くるのだから。」といったので、弱虫よわむしと思おもわれては、いけないと思おもって、
「僕ぼくもいく。」と、敏としちゃんは、約束やくそくしました。そして、ポケットから、大おおきな磁石じしゃくを出だして、ながめていますと、
「お見みせ、大おおきいのだね。これに電気でんきをかけたら、ものすごくなるよ。鉄てつびんでも、なんでも持もち上あげるだろう。だけど、赤あかいところがはげているから、じきに力ちからが弱よわくなってしまうね。でも、大おおきくて、すてきだなあ。」
 義よっちゃんは、敏としちゃんの磁石じしゃくを見みて、うらやましがりました。そして、手てに取とって、つくづくとながめていました。
 午後ごごから、おおぜいで電車道でんしゃみちへ出でかけたのです。彼かれらは地ちを震動しんどうして、電車でんしゃが通過つうかするたびに、飛とび出だしていっては、レールにめいめいの磁石じしゃくを押おし当あてていました。その間あいだ、女おんなの子供こどもたちは、左ひだりや右みぎを見張みはっていました。
 遠とおくからトラックや、オートバイの影かげが見みえると、
「あっちから、きた!」と、注意ちゅういをしました。
 みんなが、いつも遊あそぶ原はらっぱへもどってきてから、磁石じしゃくの試験しけんをしてみたけれど、その力ちからには、前まえとすこしの変かわりもなかったのです。義よっちゃんや、武たけちゃんの磁石じしゃくは、やはり敏としちゃんの大おおきな磁石じしゃくよりは、ずっと力ちからが強つよかったのでした。
 晩方ばんがた、敏としちゃんは、ラジオ屋やのおじさんのところへきました。そして、電車でんしゃのレールから、電気でんきを取とった話はなしをしました。
 色いろの黒くろい、口くちひげの生はえたおじさんは、目めをまるくして、敏としちゃんの話はなしをきいていましたが、
「あぶないな、過あやまってひかれでもしたら、どうするつもりだ。なんで、そんなことで電気でんきが取とれるものか。どれ、おじさんが、磁石じしゃくに電気でんきをかけてやるから、もう、あぶないまねをしてはいけないぜ。」と、諭さとしました。
 おじさんは、ラジオの針金はりがねをぎりぎりと敏としちゃんの磁石じしゃくに巻まきました。つぎに、その二本ほんの線せんの端はしを電池でんちの端子たんしに結むすびつけました。すると、電流でんりゅうが通つうじて、青あおい、美うつくしいが火花ひばなが散ちりはじめました。「ああ、これぐらいでいいだろう。これなら、たくさん砂鉄さてつが食くいつくぜ。」と、人ひとのよいおじさんは、笑わらって、磁石じしゃくを敏としちゃんに渡わたしてくれました。

三

 地理ちりの時間じかんでした。小山こやまは、夜店よみせで買かったといって、丹下左膳たんげさぜんと侍さむらいの小ちいさな人形にんぎょうを二つ三つ、紙かみに載のせて、下したから磁石じしゃくを操あやつって踊おどらせていました。磁石じしゃくの動うごかし具合ぐあいで、人形にんぎょうどうしは、たちまちチャンバラをはじめるのです。小山こやまは、先生せんせいのお話はなしなど、耳みみに入いれようともしないのです。
「やあ、やあ。」と、先生せんせいには聞きこえないように、掛かけ声ごえをかけて、丹下左膳たんげさぜんと侍さむらいに立たちまわりをさせていました。場所ばしょの近ちかいものは、笑わらいを殺ころして見みていました。敏としちゃんは、先生せんせいにわかると思おもったから、気きが気きでなかったので、
「見みつかるよ。」と、小山こやまに、注意ちゅういをしました。
 しかし、もうこのときは、遅おそかったのです。先生せんせいは、小山こやまをにらんでいらっしゃいました。ふいに、先生せんせいがお黙だまりになったので、小山こやまが、顔かおを上あげてみると、ほとんど、いっしょに、
「小山こやま、さっきからおまえはなにをしている? わかっているかね、塩原温泉しおばらおんせんはどこにあるか、いってごらん。」と、先生せんせいは、小山こやまをお指さしになりました。
 小山こやまは、片手かたてに、磁石じしゃくと紙かみを握にぎって、机つくえの下したへ隠かくすようにして、立たち上あがりました。
「栃木県とちぎけんにあります。」
「じゃ、群馬県ぐんまけんにある、有名ゆうめいな温泉場おんせんばは?」と、先生せんせいは、お問といになりました。
 今度こんどは、よく聞きいていなかったので、小山こやまは、ちょっと返事へんじができませんでした。このとき、二、三人にん席せきをへだてて、平常ふだんからおもしろいことをいって、人ひとを笑わらわせる武田たけだが、小ちいさい声こえで、
「どっこいしょ。」といいました。
 これをきいたものが、笑わらい出だすと、先生せんせいは、怖おそろしい目めを武田たけだの方ほうへ向むけて、おにらみになりました。とうとう我慢がまんがしきれなくなったというふうで、「小山こやまと武田たけだは、ここへ出でろ!」と、先生せんせいは、どなられたのです。
 教室きょうしつのうちがしんとしました。二人ふたりが、ぐずぐずしていると、先生せんせいは、まず小山こやまの席せきへいらして、
「いま、やっていたものをお見みせ。」と、お座ざから、引ひきずり出だされました。
 武田たけだは、先生せんせいの権幕けんまくに抗こうしがたいと知しると、自分じぶんから席せきを出でて、先生せんせいのいられる教壇きょうだんの前まえへきて立たちました。先生せんせいは、
「武田たけだ、おまえは、さっきの唄うたをうたって、小山こやまは、ここでみんなに人形にんぎょうを踊おどらしてごらん。」と、おっしゃいました。
 小山こやまは、さすがに耳みみの根ねまで赤あかくして、うつ向むいていましたが、武田たけだはしかられても、頭あたまをかきながら笑わらっていました。
 このとき、敏としちゃんは、一人ひとりだけ、窓まどの外そとで、つばめが自由じゆうに、青あおい空そらを飛とびまわっているのを、じっと見守みまもって考かんがえていたのであります。
「このつぎから、教室きょうしつへこんなものを持もって入はいったら許ゆるさないぞ。」と、時間じかんが終おわったときに、先生せんせいは、小山こやまにおっしゃいました。そして、それまでそこに立たたされていた二人ふたりは、はじめて許ゆるされたのでした。

四

 敏としちゃんの大おおきな磁石じしゃくは、ラジオ屋やのおじさんから、電気でんきをかけてもらって、ばかに力ちからが強つよくなりました。
 学校がっこうの帰かえりに、往来おうらいの上うえで、義よっちゃんや武たけちゃんは、敏としちゃんをはさんで、敏としちゃんの大おおきな磁石じしゃくに自分じぶんたちの小ちいさな磁石じしゃくを押おしつけて、電力でんりょくを分わけてもらっていたのです。
「いいんだねえ、敏としちゃん、すこしばかり分わけてもらっても、敏としちゃんのほうは、ずっと強つよいんだものね。」と、武たけちゃんが、気きがねをしながらいいました。
「僕ぼくも、ラジオ屋やのおじさんにお願ねがいして強つよくしてもらおうかな。」と、義よっちゃんがいいました。「いいよ、僕ぼくのは、赤あかいところがはげているのだから、どうせ使つかわなくても、ひとりでに電気でんきがなくなるのだもの。」と、敏としちゃんは、今度こんど、お母かあさんに、赤あかいところのはっきりとした、新あたらしい磁石じしゃくを買かってもらうことを頭あたまに描えがいていました。そこへ、同おなじ組くみの西山にしやまがきかかりました。
「君きみ、それよりか、鉱石こうせきを取とりにいかない? そのほうが、よほどおもしろいぜ。磁鉄鉱じてつこうも、黄銅鉱おうどうこうも、金きんもあるのだよ。」と、郊外こうがいの方ほうから通学つうがくする西山にしやまが、いいました。
「ほんとうかい、どこに?」と、義よっちゃんと、敏としちゃんは、磁石じしゃくのことを忘わすれたように、目めを輝かがやかしました。
「いま、河かわの工事こうじをして、割わった石塊せきかいがたくさんあるのだ。さがせば、いろんな石いしが見みつかるよ。金きんは、紫色むらさきいろをしているだろう。ちか、ちか光ひかる黄銅鉱おうどうこうと、それに、方解石ほうかいせきが、いちばん多おおい。方解石ほうかいせきは、たくさんあるよ。」
 それでなくてさえ、みんなは、なにか珍めずらしい、愉快ゆかいなことはないかと思おもっていた矢先やさきですから、それをきくと、飛とび立たつばかりにうれしかったのです。西山にしやまを往来おうらいに待またしておいて、かばんを家うちへ投なげ込こむと、すぐに、敏としちゃんも、武たけちゃんも、義よっちゃんも、駆かけ出だしてきました。その姿すがたを見みつけると、
「私わたしたちも、つれていってね。」
 原はらっぱに遊あそんでいた、かつ子こさんと、よし子こさんが、みんなの後あとを追おってきました。彼かれらは、電車道でんしゃみちを横切よこぎって、緑みどりの樹きがたくさん目めに入はいる、静しずかな、せみの鳴なき声ごえのする、涼すずしい道みちを急いそいだのであります。
 西山にしやまは、一同どうを野中のなかの河普請場かわぶしんばへ案内あんないしました。工事こうじはなかなかの大仕掛おおじかけでした。河水かすいをふさいで、工夫こうふたちは、河底かわぞこをさらっていました。細ほそいレールが、岸きしに添そって、長ながく、長ながくつづいています。その行方ゆくえは光ひかった草くさの葉はの中なかに没ぼっしていました。工事場こうじばの付近ふきんには、石いしの破片はへんや、小砂利こじゃりや、材木ざいもくなどが積つんでありました。また、ほかの工夫こうふたちは、重おもい鉄槌てっついで、材木ざいもくを川かわの中なかへ打うち込こんでいます。太ふとい繩なわで、鉄槌てっついを引ひき上あげて、打うち落おとすたびに、トーン、トーンというめり込こむような響ひびきが、あたりの空気くうきを震動しんどうして、遠とおくへ木霊こだましていました。ときどき、思おもい出だしたように、ゴーッ、ゴーッと叫さけびを上あげて、トロッコが幾台いくだいとなくつづいて、小石こいしを満載まんさいしてきました。これを工事場こうじばへ開あけると、ふたたび、あちらへ引ひき返かえしていくのでした。「あっちに、まだ割わった石いしがたくさん積つんであるのだよ。」
 西山にしやまは、先頭せんとうに立たって、草原そうげんの方ほうへ突進とっしんしました。なるほど、トロッコの通とおるレールから、そう離はなれていないが、工事場こうじばからはかなり距へだたった草原そうげんの中なかに、石いしの破片はへんが、白しろい小山こやまのごとく積つみ重かさねてありました。知しらない子供こどもが二、三人にん、先さきにいって、熱心ねっしんに一つ、一つ、石いしをより分わけている姿すがたが見みえたのです。
「石いしを取とってもしかられない?」と、敏としちゃんが、ききました。
「この大おおきいのは、一つだって重おもくて持もってはいかれないさ。ちっとばかり、欠かく分ぶんなら、かまわないだろう。」と、西山にしやまが、答こたえました。
「しかられないかなあ。」と、義よっちゃんは、考かんがえながら、トロッコの通とおるたびに、線路せんろの方ほうを見みました。
「怒おこったら、逃にげればいいや。」
 西山にしやまは、そういって、もう石いしの丘おかへ登のぼっていました。
「ほら、これが方解石ほうかいせきなんだぜ。」
 白しろい石いしの破片はへんに、他たの色いろとまじって、ひときわ白しろく光沢こうたくを放はなち、塩しおなどの結晶けっしょうのように見みえるのです。方解石ほうかいせきだけは、割わっても、割わっても、四角形かくけいに割われる特徴とくちょうを有ゆうしていました。
「ちょっと、水晶すいしょうみたいだね。」と、武たけちゃんが、いいました。知しらない子供こどもたちまで、西山にしやまのそばに寄よってきました。その子供こどもたちの手てにも、なにか石いしが握にぎられています。
「これ金きんでない?」と、その一人ひとりが、自分じぶんの持もっている、石いしの破片はへんを示しめしました。
「どれ、そいつは磁鉄鉱じてっこうらしいな。金きんは、もっとうす紫色むらさきいろを帯おびているよ。」と、西山にしやまが、いいました。
「この、ちかちか光ひかるところだけは、銅どうなんだろう?」と、義よっちゃんが、のぞきました。「そうらしい。」
「僕ぼく、方解石ほうかいせきを見みつけた!」
 見みると、敏としちゃんは、石いしで、石いしを打うって、その部分ぶぶんだけを取とろうとしています。
「君きみ、方解石ほうかいせきって、どんなの?」
 知しらない子供こどもの一人ひとりが、よく知しろうとして、敏としちゃんにききました。
 敏としちゃんが、教おしえていると、ちょうど、ゴーッ、ゴーッと風かぜを切きって、レールの上うえを走はしってくる、トロッコの音おとがしました。
「おい、がきども、いたずらするなあ。」と、そのトロッコは、通とおり過すぎるときに、わめいてゆきました。
 二人ふたりの労働者ろうどうしゃが、空からのトロッコに乗のっていました。元気げんきのいい若者わかものでした。後あとからも、後あとからも、いくつかのトロッコはつづいてゆきましたが、中なかには、こちらを見みて、親したしげに笑わらっていく男おとこもありました。
「さっきの奴やつ、生意気なまいきだね。」といったのは、武たけちゃんです。
「もし、あいつが飛とんできたら、僕ぼくたち逃にげようか。」
「逃にげなくたっていいさ。」
「そうしたら、おもしろいな。なんで僕ぼくたち、捕つかまるもんか。」
「石いしを投なげてやろうや。」
「かっちゃんや、よし子こさんは、早はやくあっちへいっておいでよ。」と、義よっちゃんが、いいました。
「私わたし、つかまったら、あやまるわ。」と、よし子こさんが、いいました。
「いやよ。だって、私わたしたちなにもしないんでしょう、見みているだけですもの。」と、かつ子こさんが、いいました。
「それだから、女おんななんか、こなければいいんだ。」と、武たけちゃんが、怒おこりました。
「もう、いいよ。」
「それよりか、早はやく、いいのを見みつけようや。」
 敏としちゃんは、真まっ赤かな顔かおをして、石いしを石いしに打うちつけていました。
 しばらく、みんなが、石いしを割わるのに夢中むちゅうだったのです。

五

 突然とつぜん「ブーウ。」と、長ながいうなり声ごえをたて、トラックが、原はらっぱの中なかへ入はいってきました。石いしの破片はへんを運はこんできたのです。
「きたっ!」といって、みんなは、逃にげ出だすような身構みがまえをしたけれど、もう逃にげ出だすすきがなかった。はや、トラックは、目めの前まえにきて止とまりました。止とまるといっしょに、ぱっと三人にんの男おとこが、自動車じどうしゃの上うえから飛とび降おりました。そのうち、一人ひとりの男おとこが、敏としちゃんのそばへいって、手てもとをのぞき込こんで、「どんな石いしを探さがしているんだね。」と、ききました。そのやさしみのある質問しつもんに、みんなは、ちょっと意外いがいな感かんじがしました。
「方解石ほうかいせきを取とっていたのだ。」
 敏としちゃんは、正直しょうじきに答こたえたのです。
「学校がっこうの理科りかで、習ならっているんだな。」と、その男おとこは日ひに焼やけた黒くろい顔かおに、白しろい歯はを見みせて笑わらっていました。
「おじさん、この石いしはどこからくるの?」と、敏としちゃんが、ききました。
「埼玉さいたまや、茨城いばらきの方ほうからくるんだ。大おおきな石いしを機械きかいにかけて、こんなに細こまかにして、電車道でんしゃみちや、河川工事かせんこうじに使つかうのさ。」と、その男おとこは、答こたえました。
 これをきくと、敏としちゃんは、なんとなく石いしの故郷こきょうがなつかしい気きがして、思おもわず、大空おおぞらの果はてをながめたのです。先さきのとがった森影もりかげが、まぶしい日ひの光ひかりに霞かすんでいて、遠とおくの地平線ちへいせんには、白しろい雲くもが頭あたまをもたげていました。
 三人にんのおじさんたちは、石いしをそこへ下おろすと、またトラックを運転うんてんして、原はらっぱの中なかをどこへとなく消きえてしまったのです。
「あのおじさんたちは、いい人ひとたちだな。」
「この石いしは、遠とおいところからきたのだよ。」
「トンネルを掘ほるときは、ダイナマイトで、岩いわを砕くだくのだってね。」
「ああ、ド、ドーン! すごいだろうな。」
「いまのおじさんは、ラジオのおじさんに似にているだろう。」
「ちがうわ。」
「似にていたよ。」
「そう思おもうのは、敏としちゃんだけよ。」
 石山いしやまの周囲しゅういで、こんなことをいっていると、また、ゴーッ、ゴーッと、トロッコが、風かぜを切きって走はしってくる音おとがしました。ここからは、草くさの間あいだに見みえつ、隠かくれつしている細ほそいレールは、頼たよりなげな二本ほんの火ひばしのようにしか見みえなかったのです。
 小砂利こじゃりをいっぱい積つんだ箱はこの上うえに、先刻さっきのどなった、元気げんきな若者わかものが突つっ立たっていました。敏としちゃんは、握にぎっていた石いしを手てから放はなして、その方ほうを振ふり向むいていると、男おとこは、なにかいいたげなようすをして、こちらをにらんでいたが、ちょうどカーブへさしかかった途端とたんに、調子ちょうしづいているトロッコは、はっと若者わかものが気きづいたときには、もう脱線だっせんして、止とまってしまったのでした。だが、それを知しらずに、後あとから、後あとから、ほかのトロッコは、唄うたなど歌うたいながら、走はしってくるのです。 あわてて、若者わかものは両手りょうてを高たかく上あげて叫さけびました。
「だっせんだぞう。」
 すると、いくつかのトロッコは、ぴたりと止とまってしまいました。
「あいつ、生意気なまいきだから罰ばちが当あたったんだね。」と、義よっちゃんが、いいました。
 若者わかものは、まったく子供こどもたちの方ほうに気きを取とられて、自身じしんの注意ちゅういを怠おこたったためでした。そこで、いっしょうけんめいになって、脱線だっせんした車くるまを直なおそうとしたけれど、とうてい二人ふたりの力ちからではだめでありました。しかし、仲間なかまはそれと悟さとると、すぐに車くるまから飛とび降おりて、トロッコの脱線だっせんした場所ばしょへ集あつまってきました。そして、力ちからを協あわせて、やっと重おもい車くるまをもとの位置いちにもどすことができたのです。
 トロッコは、ふたたび、レールの上うえを快こころよく走はしりはじめました。
「万歳ばんざい!」と、武たけちゃんと、敏としちゃんは、手てをできるだけ上あげて、叫さけびました。おそらく、二人ふたりの若者わかものは、その声こえを聞きいたであろうけれど、自分じぶんの意地悪いじわるさを心こころに恥はじたのか、こちらを見みずにいってしまいました。
「もう、帰かえろうよ。」
「今度こんどは、あのいいおじさんだって、きっとしかるから。」
 帰かえりかけると、知しらない子供こどもたちも、敏としちゃんや、かつ子こさんや、義よっちゃんたちといっしょになって、原はらっぱを去さりました。めいめいが石いしの破片はへんを抱いだいて往来おうらいへ出でた時分じぶん、幾分いくぶん日ひが蔭かげって、どこからともなく涼すずしい風かぜが吹ふいてきました。白しろい雲くもが、いつのまにか、自分じぶんたちの頭あたまの上うえまで広ひろがっていたのです。
 途中とちゅうで、西山にしやまや、知しらない子供こどもたちと別わかれました。
「家うちへ帰かえったら、みんなで、石いしを分わけようね。」と、敏としちゃんが、いうと、
「僕ぼくは、こんど理科りかの時間じかんに、学校がっこうへ持もっていって先生せんせいに見みせるのだ。」と、義よっちゃんが、いいました。 みんなは、楽たのしかった、一日にちの遊あそびを思おもい返かえしました。黄金色こがねいろの夏なつの日ひは、まだ、暗くらくなって遊あそべなくなるまでに、だいぶ時間じかんがあったのであります。



青空文庫より引用